チルドレンズ・ミュージアム

2020.08.18
アムステルダム 熱帯博物館(KIT)付属子ども博物館

 チルドレンズ・ミュージアム紹介第6弾。(「子どもの創造力スイッチ」より転載。

 アムステルダム中心部にある熱帯博物館(KIT)付属の子ども博物館。6歳から13 歳の子どもたちを対象とした本ミュージアムは、ヨーロッパで初めてのチルドレンズ・ミュージアムとして1975年に開館しました。KITが民族ミュージアムであるため、KIT子ども博物館でも、民族や文化に焦点を当てた展示を行っています。ストーリーテリングや歌、ダンス、アートを含めた言い伝えを、インタラクティブメディアを使って西洋の劇や技術と融合しつつ、子どもたちの体験の場を提供しています。

 主に、その文化の国から来たミュージシャン、ダンサー、役者が、プログラムを作成し、子どもたちを展示の世界に引き込み、訪問=体験となるような工夫をしています。つまり、ハンズオンと呼ばれる形ある展示だけではなく、ダンス、音楽、芸術、工芸、物語など無形の文化も組み合わせたミュージアムなのです。その目的は、世界の文化の多様性を理解し、尊重する心を育むこと。子どもたちは、世界中の様々な価値観、考え方、宗教、伝統、生活様式を提示され、自分たちの文化との相違点と類似点を知り、独自の視点を得ることができるようになっています。

©Villa Zapakara – Surinam

 これまでにセネガル、バリ、アボリジニなどの文化が展示されていましたが、テーマは2〜5年ごとに入れ替わります。どの展示も7つの基準を満たすように設計されているといいます。

 まず1つ目に「没頭できること」。展示はしっかりとしたストーリーに基づき、現実の世界を濃縮して表現しています。オーディオ技術やインタラクティブメディアの力を借りることで、子どもたちをよりその世界に没頭させるようにしています。

 2つ目は「現代的であること」。現代の文化や文脈の中で、普遍的なテーマを提示するようにしているといいます。子どもたちには、過去と現在をつなげ、展示内容が日常生活にどう関係しているのかを示すようにしているそうです。

 3つ目は「ダイナミックであること」。ただ見るだけでも、ただ聞くだけでもない。子どもたちは、展示の活動に参加することで、その文化の一部になれます。子どもたちの気持ちを刺激し、主体的で、身体化する学びのプロセスを体験することができるように設計されています。子どもたちはすべての感覚をフルに使い、身体的、社会的、知的スキルを身につけていきます。

 4つ目は「驚きを提供すること」。予期しない出来事、予期しない展示、予期しないミュージアムスタッフとのやりとりを通じて、来場者を驚かせ、好奇心を刺激することに注意を払っています。

 5つ目は、「個人的であること」。文化の代表としての常套句を活用せず、あくまでも個人の物語に寄り添った見せ方をしています。他の国の文化の一部を切り取るのではなく、個人に焦点を当てることで、可能な限り総体的に伝えようとしているのです。

 6つ目は「本物であること」。実際の人、実際の生活に基づいた文脈で、本物の経験を子どもたちに提供するようにしています。展示会は、子どものためのものですが、幼稚ではないと指摘しています。可能な限り、子どもたちに、模倣品ではなく、本物の素材に触れることができるようにし、一貫性と深さを追求しているのです。

 だからこそ、展示のアイデアやコンセプトは実際にスタッフが現地に行って取材をする中で生み出しているといいます。また、楽器や工芸品、民族衣装などを現地から調達し、ワークショップのファシリテーターも現地の人が担うそうです。

©Tropenmuseum Junior

 最後は「共有すること」。現地の文化の専門家やアーティストと知識やアイデアを共有する。ミュージアムの外の様々な専門家と体験を共有する。来場者が家族や友達、同級生と体験を共有する。共有を大事にしています。

 私が訪問した際に展示されていたのは、西アフリカ・ガーナのアシャンティ族の文化。ミュージアムは、アシャンティの宮殿のように改造されていました。レセプションルーム、宝物室、ヒミツの部屋、中庭、王様のクローゼット、ドラムの部屋。その宮殿には、様々なコレクションが置いてあります。宝石、絵、王様の服、ドラム……。

 ここに来ている子どもたちは事前に学校で学習を済ませています。スタッフの案内のもと、6〜12 歳の子どもたちは、民族衣装を着て、王様のように歌い、踊り、ストーリーを語り、宮殿での生活やヒミツを発見していきます。そのレベルの高さには驚かされます。

 本ミュージアムは常に新しいやり方を模索し続けています。この展示の際には、子ども向けの特別ウェブサイトを用意していました。ミュージアムを訪れた子どもたちは、自分のウェブページをつくり、体験を共有できるようにしていたのです。

 長い歴史と深い経験のあるミュージアムとして、展示を他の国に展開したり、展示のアイデアのコンサルティングをしたり、国際的な役割も担っています。2012年に、チルドレンズ・ミュージアム大賞を受賞したのは、そういう実績も踏まえてのことなのでしょう。

 ©Tropenmuseum Junior