デジタルえほん

2013.06.06
電子書籍に一番向いているのは絵本?

デジタルえほんアワードインタビューシリーズVol.6

「電子書籍に一番向いているのは絵本?」

 世界的にも著名な、涼宮ハルヒ、ケロロ軍曹などを生み出しつつける角川グループホールディングス会長角川歴彦さんにお話をうかがった。

 「電子書籍に一番向いているのは絵本ではないか?」と角川さんは語る。iPadが出たときに、直感的にこれはデジタルえほんが一番いいと思ったというのだ。これまで、子どもたちも含め、日本人には、パソコンは向かないと言われて来た。タイプライターで言葉を入力する習慣もないからだ。だから、日本は情報化社会に取り残されていくと言われてきたという。しかし、iPadが登場すると、子どもたちは当たり前のようにタッチして使う。「タッチ革命」という言葉が生まれた。そのタッチ革命で、日本人の生活は、がらっと変わった。西洋人に立ち後れる理由がなくなったのだ。ITの技術革新はアメリカで始まったが、すでに日本人のDNAになっている。それは子どもも同じ。これまでは、保護者が子どもに与えるのはテレビだったが、今の親をみていると、タブレットを与えている。「テレビでも見ていなさい。」ではなく、「タブレットでも見ていなさい。」となった。子どもたちはデジタルネイティブだが、お父さんお母さんもデジタル世代。新しい時代へと革命的に変化している。「子どもたちの経験は、テレビで見たではなく、タブレットで見たに変わってきています。テレビが誕生してから60年。歴史がいま大きく変わろうとしています。」

 また、教育の分野への波及についても指摘する。「文明や文化が大衆化すると、エデュケーションがおざなりになり、エンターテイメントが強くなります。多産の時代は、教育産業が盛り上がっていましたが、いまは厳しい。そのかわりエンターテイメントが豊かになっています。ところが、タブレットが出てきて、もう一度、エデュケーションが、エンターテイメントの要素を埋め込みながら重要になってくるという予感があります。現にランドセルがなくなって、ipad1枚になるという世界が現れつつありますから。」エンターテイメントの視点からエデュケーションを考え直したいという。「今までの教育をタブレットが置き換えるということではありません。デジタルをきっかけに新しい教育が始まるということ。」

 もちろん注意しないといけないこともある。テレビは公共的な放送であり、免許事業であった。みんながモラルを守って作ってきた。しかし、タブレットの場合は、フィルターがない。社会が直接に子どもに入って来てしまう。だから提供側のリテラシーも、ユーザー側のリテラシーも両方上げていかなくてはいけない。

 デジタルえほんアワードは提供者側の学びに大きく貢献しているのではないか?という。「ipad登場から数年。もうこのような作品がでてくることに驚きました。絵本のデジタル化というより、デジタルえほんの制作という考え方が大事ですね。デジタルえほんは、電子書籍の基本となると思います。」
そもそも電子書籍という言葉が、今の時代に合わなくなってきていると指摘する。「電子書籍という言葉は、CDROMができた頃に生まれた言葉。いまはもう電子書籍はネット。つまりネット書籍。でもネット書籍と言わずに電子書籍と言いますよね。出版社もプリントメディアである紙の本をただデジタルを置き換えてもだめだということはもう分かっています。いままでプリントメディアで与えられなかった可能性が、そこにはあります。出版社が変わらなくてはいけない。だから、素朴なデジタルえほんというテーマが、実は出版社に覚悟を強いているのです。」

 紙とデジタルでは表現の仕方が全く変わる。絵本作家もこれから二分されていくだろうという。紙の絵本は二次元の世界。デジタルえほんは三次元の世界。紙の絵本にも、ページを開くと、絵が飛び出してくる立体絵本という分野があるが、デジタルえほんではそれが当たり前にできてしまう。2Dで表現したい人は紙にこだわるし、3Dで表現したい人はデジタルに行く。紙の世界では、絵を描く力と物語をつくる文章力があればよかった。デジタルになると、さらに技術が必要となる。もちろん表現のハードルは高くなるが、表現者がデジタルネイティブになれば、そのハードルの高さも感じないのだろう。才能の幅が広がり、新しいタイプの表現者が出てくる。
「自分の表現の仕方に、新しく3Dが入るということです。それが当たり前になっている世代を、2Dに閉じ込めておくことはもはやできません。ただ、もちろん技術を習得するサポートは必要。技術をどんどん与えて、ハードルを下げていく。それは出版社として応援しないといけないことです。」

 電子書籍が広がらない理由は、出版社が紙を温存したいからだと言われていた時期もあったが、出版社は電子書籍に取り組みたいと思っているのだという。しかし、これまでの端末ごとにフォーマットがバラバラであったため、対応にはコストがかかりするために一歩を踏み出せないでいた。フォーマットの統一がなされて以降、急速に広がっている。今では、電子書籍の印税が収入の半分を占めるという作家もでてきているという。子どもたちの世代から、デジタルえほんの分野でアメリカンドリームを達成する人がでてくるとさらに広がるのではないかと期待を寄せる。

 「デジタルえほんの分野で努力をされている関係者は同志です。順調に大きくなって欲しい。出来る限りのことは応援します。いまは苦労もあるかもしれないですが、そこを突き抜けると世界は一瞬で変わる。それまでがんばりましょう。」と力強いメッセージを頂いた。