デジタルえほん

2013.08.08
中学生が作るデジタルえほん

デジタルえほんアワードインタビューシリーズVol.15

「中学生が作るデジタルえほん」

 第2回デジタルえほんアワードにて、中学生が堂々の受賞。誰でもがデジタルえほんをつくれる時代。子どもから応募があり、受賞に至る。感無量だ。岡崎から新幹線で授賞式にかけつけてくれた岡崎市立竜海中学校パソコン部2年生の宇野侑佑さんと部活顧問の神谷耕一先生にお話をうかがった。

 「小学4年生の時に自転車で事故にあった時くらいびっくりしている。」授賞式会場にてコメントを求められると、冒頭から会場中の笑いをとる見事なスピーチをしてくれた。
 現在パソコン部でアニメーション制作やプログラミングに毎日取り組む宇野さん。今回受賞をした「めがねはちょうちょにあこがれる」という作品は、ストーリーづくりから、絵、プログラミング、すべて自分だけで制作したという。「もともとゲームが大好きだった。」と語る。中学校に入学し、パソコン部に入ると、ゲームやアニメーションの仕組みが分かるのではないか?と思い入部を決めた。

 自分一人で開発したということだけでも驚きだが、ストーリー展開も実にユニークで面白い。「カラフルなチョウチョに憧れて、眼鏡が色をもとめて旅に出る。反射や屈折などレンズの様々な特性を利用しながら、チョウチョにも負けない模様を手にすることになる。」
 伝えたかったメッセージは、努力をすればだれでも目標を達成できるということ。ストーリーのきっかけは、お母様の「めがねが飛んだら面白いね。」という一言だったという。そこから話を膨らませた。制作期間は約2ヶ月。

 工夫した点は、ストーリーに分岐をつくったこと。様々なしかけボタンが入っており、インタラクティブ性に富んだ作品に仕上がっている。「分からないプログラムは、ネットで調べたり、先輩や友人に聞いたり、みんなで協力してもらった。」家族、先生、友人、みんなにサポートしてもらいながら、1つの作品を完成させた。受賞の報を聞き、お母様は感激して涙を流し、親戚、クラスの仲間も大喜びだったという。

 さて、宇野さんの所属するパソコン部。神谷先生がはじめて顧問になった時、決して熱心に活動をしている部活ではなかったという。むしろパソコン室に、部員が誰もいないという状況だった。パソコン室で見てはいけないページばかり見ていたために、部員がパソコン室にいれてもらえなかったのだ。それは目的がなかったからだと神谷先生は説明する。そこで、生徒に「本当は何をやりたいのか?」聞いて回った。すると、「できないと思うが、アニメーションやプログラミングができたらうれしい。」という答えが返って来た。「それならやろう!」神谷先生は、すぐにパソコンにソフトをいれた。「自分がヒーローになる映画を作るのが夢だ」という生徒が入部してきた時には、特殊効果のソフトを入れた。3Dに挑戦したいと言われた時には、予算がないので、無料のソフトを大量に調べ、難易度や条件を説明して、子どもたちに選ばせた。子どもたちは、一番難易度の高い英語のソフトを使って制作に取り組んでいるという。宇野さんに聞いてみると「英語は苦手」だという。しかし「プログラミングで使う英語はまったく問題ない。」学校の授業の英語は楽しくないけれど、プログラミングで使う英語は楽しいからだそうだ。

 神谷先生が大事にしていることは「手伝わない」こと。子どもたちは、放っておかれると自分で考えて、自分で動く。「学校は過保護になってはいけない。基本的には自分たちでやらせる。」というのが基本方針だ。
 また、「学校でエクセルやワードの使い方を教えるのは違うのではないか?」と神谷先生は語る。子どもの創造力を発揮させる道具として、コンピューターというツールをつかわないといけない。「子どもがこういうのを作りたい!と言って来たら、それが実現できる環境を提供してあげたい。」子どもも大人も、作りたいものを作り、みんなで共有できる、ということがコンピューターの価値。「東京では、そのような活動をしているグループがいくつかあるようだが、地方にはなかなかない。全国で思いを持った子たちがしっかり活動でき、つながって、交流できればと願っている。」

 神谷先生にはもう1つやりたいことがある。ノートの新しいカタチをつくるということだ。ノートも教科書も前から順番に開いていく形式だ。しかし、頭の中の知識は、本当はネットワーク上の相関図のような立体構造。その一部に後から追記したりしたいが、紙では実現できない。それは、黒板も同じだ。板書計画という言葉があるが、板書は、始めから書く内容を決めている。しかし、本当は子どもたちの意見が出て来たら、その意見をつなげあわせ、動的に動かしたい。「子ども同士の意見を絡み合わせて、そこに焦点をあててあげないといけない。知識を組み合わせたり、崩したり、それができるのはデジタルならではでないか?」と語る。
子どもたちの思考が絡まり、深まる新しいカタチの学習ノート。ぜひデジタルで実現して頂きたい。

 今は文化祭に向けてみんなで1つの3Dのゲームに挑戦中だという。文化祭はみんなで協同して作り上げる場。一緒に作るのと個人で作るのは違う。最後の最後でうまく組み合わせられないことも多い。個人で好きなものを作るだけではなく、チームで1つのものを作り上げる経験を身につけて欲しいと語る。それは社会に出てからの必須能力だからだ。
 「いつかゲームをつくるプログラマーになりたいです。」まっすぐ前を向き、凛と答える宇野さんの姿に明るい未来を見た気がした。