デジタルえほん

2013.08.01
家族に伝えるためのデジタルえほん

デジタルえほんアワードインタビューシリーズVol.14

「家族に伝えるためのデジタルえほん」

 家族のために絵本づくりに取り組んで来た木立さん。今回はじめてデジタルえほん制作に挑戦し、見事審査員特別賞を受賞した。授賞式当日は家族そろって参加をしてくれた木立さんにデジタルえほんに対する思いをうかがった。

 「家族の誕生日のプレゼントに手作りの絵本をつくっている。」と語るのは木立さん。これまでに6冊の絵本を制作してきた。新作「ひとりぼっちのりく」は第2回デジタルえほんアワードで審査員特別賞を受賞した。今回の作品は愛犬の1歳の誕生日プレゼントの絵本だったそうだ。これまでは絵を描いては、糊で貼りつけ製本し、オリジナル紙の絵本を作ってきた。ところが、描いた絵をスキャナーで取り込めば簡単にデジタルえほんがつくれるというツールの存在を知り、今回チャレンジしたという。「以前から、子どもたちに、出てくる恐竜を動かして!など言われていたこともあって。」そして、IT系の仕事に関わるご主人の提案でデジタルえほんアワードに応募した。

 「ひとりぼっちのりく」は、東日本大震災のことを子どもたちに伝えるためにつくった作品。「津波の映像はインパクトが強すぎた。特に、繊細な長男は、映像を止めて欲しいと訴えていて。」子どもたちのショックを軽減しながらも、しっかりと東日本大震災のことを伝えなければならない。「ボランティアの方が津波で流された犬や猫の救出のために奮闘している姿を知り、犬を主人公に伝えることに挑戦してみることにした。」

 「ひとりぼっちのりく」は、主人公の犬である「りく」が、津波に飲み込まれ、自分自身はなんとか生き残るものの、他の兄弟8匹とお母さんとは別れ離れになってしまうというお話だ。「この犬にはもう飼い主もいない、お母さんもいない。そういうことを、映像ではなく、言葉だけでもなく、どう伝えればいいかを考えた。」子どもたちにショックを与えすぎないようにどういうシーンを抜き取るかは、何度も推敲を重ねたという。結果、かなりのページを削り、今回は短編作品となった。
「書かなければ忘れられてしまう。子どもたちが大人になった時にも、しっかりと記憶として残しておいてほしい。」

 「必死で水のなかから抜け出し、寒くて暗い夜にゴミの中で寝るシーンには、雪を振らせたかったが、やり方がわからなかった。また、もっと音をつけたかったけれど、録音した後の雑音の消し方がわからなかった。」など、技術的な問題で表現しきれなかったこともあるという。「デジタルえほん制作用にも、誰でも簡単に使えるGUIのツールがあれば、デジタルえほんをつくりたい人はもっともっとたくさんいると思う。」と語る。また、デジタルえほんアワードグランプリ受賞者が企業であることに言及し、「個人も協同でデジタルえほんをつくれるような仕組みがあったらいいのでは?」と提案する。木立さんのようにストーリーと絵を考える人と、技術に詳しい人が協働したら、もっと表現の広がりが出てくるだろう。

 また、三人の子どもや近所の子どもたちが絵本やデジタルえほんを読む様子をみながら、「両者はまったく違うものとして存在しなくてはいけないと感じた。」という。「紙をめくる手触りや、その紙の大きさ、重さなども含めて子どもたちに伝えたいのが紙の絵本。デジタルえほんで紙の絵本のようなものを作ってしまうと、紙の絵本の方が面白く感じてしまう。もっと違うことしないといけない。」そして今回の中学生の受賞で子どもたち自身がそれに取り組み始めていることを知って驚き、面白く思っている、とも付け加えた。

 木立さんが考える楽しいデジタルえほんとはどういうものか?「見ている人が想像できないような動きをするデジタルえほんをつくりたい。子どもたちを驚ろかせるびっくり箱のようなもの。」「えほん」という概念にとらわれて、おとなしいものを作ってしまったと、残念に感じているというのだ。「子どもたちのドキドキワクワクを大切にしたい。普段、子どもたちと遊ぶ時のようにデジタルえほんを使ってダイナミックな遊びをして、子どもたちが驚き笑う顔が見たい。」

 最後に、「デジタルえほんは無菌室の部屋で過ごし、外に出られないような病院の子どもたちに渡してあげるといいのではないか?」と話してくれた。木立さんのご家族は病院街の横に住んでいて、そういう子どもたちをたくさんみてきたという。「たまにタレントさんが病院でイベントをしてくれる。それはそれで素晴しいが、日常生活ではほとんど何も持ち込めない。しかし、デジタルえほんには、世の中のたくさんの世界が詰まっている。」
 すべての子どもたちの想像力を刺激し、世界を広げてくれる。そんな表現にデジタルえほんが育ってほしい。