超教育協会
- 2021.04.24
- 【開催報告】「触覚から人の可能性を拡張する~『Haptics』で実現できること」
超教育オンラインシンポ「触覚×教育」の巻。触覚を介して身体的経験を伝える技術を教育にどう活用していくか。KMDの南澤先生にお話を伺いました。
南澤先生の研究領域は、身体的経験を共有・創造・拡張する「身体性メディア」。その研究を通じて実現したいことは、他の人の体験を「見る」のではなく「体験する」仕組みをつくること、デジタル空間でふれあいや親密さを生み出すことで人と人をつなぐこと、人間が本来持っていない能力を創出することの3つだと言います。
CANVASでも何度もご一緒してきたのが誰でも簡単に「触覚の体験」を作り出せる装置である「TECHTILE toolkit」を活用した触覚体験ワークショップ。遠隔の人にも自分が感じた触覚体験を伝えることができます。それをさらに拡張し、触覚を手や足だけではなく全身に伝える触覚スーツの開発も行っているそうです。VRのHMDだけであれば頭はゲームの世界に入り込んでも、身体は現実世界に取り残されますが、このスーツを着用することで仮想現実の世界に全身で入り込めます。
スポーツ観戦での活用事例も興味深い。熊本で開催されたBリーグの試合を東京のオンラインビューイング会場に届ける際に、4K映像と立体音響に加えて、床の振動まで届けると、観戦の体験が全く違うものとなるといいます。
「触る/触れる」感覚を、視覚・聴覚と同様に伝送することで、新たなコミュニケーションを創出することも可能となります。例えば、遠隔地で2人で絵を描く際に筆記感覚を伝えることで、距離を感じさせない共同作業を実現できるそうです。オンラインでしかつながれない人たちの協働体験の支援にもなり、コロナ禍で重宝されそうです。
質疑応答では、人によって感じ方の差異がある感覚や体験をどう再現するのかという点から議論を展開していきました。同じ頬に触るにしても、軽く撫でられるのと、パチンと叩かれるのでは意味が変わってくる。単に肌の感触を再現すればいいわけではなく、そこに込められた意図を再現しなければ、情報としては正しくとも違う経験となる。南澤先生は「ディテールよりも記憶や体験に残る部分がきちんと伝わればいい」という考え方を示してくれました。つまり「情報」を伝えるのではなく、あくまでも「体験」を伝えるわけです。
教育利用という点でいうと、特別支援教育と触覚技術の利用の親和性を感じており、その点について質問をしてみると、いまは特別支援学校で「触覚で感情を届ける」プロジェクトに取り組んでいるそうです。また、スポーツにおける「繰り返し学習」に活用できるのではないかと言います。コーチだけが知っているコツを触覚を通じて伝達することで高速学習に効果があるのではないかという仮説があるそうですが、エビデンスはこれからとのことで、期待したいところです。
教育現場でどういうシーンに触覚を使うとその価値がより理解されやすいのかを考えていたところ、視聴者から「児童や生徒の体の異変について、どの程度深刻なのかを先生が察知するために痛みの伝達に使えないか?」という質問がありました。生理痛やDV等の痛みの再現は実現できるが、「本当に痛いコンテンツ」は使い所が限られているし、そのまま伝達するのがいいのかも悩ましいという回答でしたが、それはそのとおりですね。
「体験とは何か」を改めて考えさせられました。「触覚技術」が教育現場でより活用されても良いタイミングに来ているとも思いますので、ざわさん、また色々とご一緒しましょう。