プログラミング教育

2013.12.30
MITメディアラボ ミッチェルレズニック教授が語るプログラミング学習

気がつけば半年も経ってしまいましたが、2013年8月20日にMITメディアラボのミッチェルレズニック教授をお招きし、プログラミング学習のシンポを開催しました。
http://www.canvas.ws/programming/seminar/
その時のミッチ先生のお話が本当に素晴しく、ミニッツブックにも書いたのでブログでも紹介します。

 なぜ子どもたちにプログラミングをする場を提供しているのか。よく受ける質問です。目的は子どもたちがコードを書けるようになることではありません。私たちが伝えたいのは、あくまでも「つくること」です。
 つくること、表現することの一手段として、プログラミングが子どもたちにとって身近なものになってきました。しかもプログラミングは、今までにない表現方法を可能とします。立体物を動かすこともできるわけですから。子どもたちにとっては、粘土があって、クレヨンがあって、同じように、プログラミングがあるわけです。
 先日、子ども向けビジュアルプログラミング環境であるスクラッチを開発したMITメディアラボのミッチェル・レズニック教授を招いて、子どもたちのプログラミング学習について考えるシンポジウムを開催しました。
 レズニック教授は「Learn to code, code to Learn(プログラミングを学び、プログラミングで学ぶ)」と題して、プログラミング学習がなぜ重要かということについて話してくれました。
 レズニック教授は冒頭、こう語ります。「コードが書けるということは文章を書くことと同じようなものです。」そしてこう指摘します。「文章が書けるからといってプロのライターになるわけではありません。しかし日常生活を送る上で文章を書ける必要があり、すべての人が文章を書くことができるということが大事なのです。文章を書くことで、自分を表現し、それを世界中の人と共有することができます。文章が書けることによって学ぶことができます。プログラミングもそれと同じなのです。」
 プログラミングができるということは生活の役にたつこと。自己表現を可能とし、より多くの学習を可能とするのです。
 そして具体的ないくつかの例を挙げながら、その効果を説明しました。

 1つ目は母の日に母の日のカードをつくって送った時の話。「スクラッチ」というブロックを積み上げるような直感的な仕組みでプログラミングできるソフトウェアを使います。
 スクラッチのサイトをみてみると、他のこどもたちがつくったたくさんのカードが置いてありました。それを見て感じたことは「この子どもたちは技術を流暢に使えている」ということだったといいます。
 「流暢に使えるということはウェブサイトを立ち上げて読めるということではありません。自分の言いたいことを表現できること、そしてそれを共有できるということです。」
 いま、多くの子どもたちは、新しい技術に慣れ親しんでいます。しかし、それは本当に自由に使いこなしているといえるのでしょうか?現状では、多くの子どもたちが、単にゲームなどをしているだけで、その技術を使って創造したり、表現したりすることはできていません。
 しかし、「スクラッチのサイトに集っているこどもたちは、自分たちが大事だと思うことをしっかり表現し、アイデアを共有し、技術を流暢に使いこなしているのです。」

 2つ目の例はレズニック教授が立ち上げたコンピュータクラブハウスという低所得者層の子どもたちのための放課後の居場所での出来事です。普段は技術に触れることのない子どもたちのために用意したこの場で、スクラッチを使ってゲームをつくっていたカルロスくんのお話。
 カルロスくんは、魚を食べる魚のゲームをつくって楽しんでいました。しかし、スコアをつけたいのに、つけ方がわからない。そこで変数の使い方を教えてあげたところ、カルロスくんは非常に喜びました。
 「数学の先生が、子どもたちに代数を教えて、こんなに感謝されたことがあったでしょうか?」レズニック教授はそう問いかけます。子どもたちの多くは、学校で習う数学を役に立つものとは思っていません。だから数学の勉強はつまらないものになっているのです。
 しかしカルロスくんは、変数を役に立つ形で使うことができました。だからこそ先生に感謝をしたのです。役に立つということはワクワクすることです。「子どもたちは思い入れをもったことに集中することでたくさんのことを学ぶことができます。それが例え困難なことであったとしても、もっと粘り強く学ぼうとすることができるのです。」
 その後、カルロスくんは、変数だけではなく、演算の仕方など数学のいろいろなことを学びました。そして、どうやって問題を見つけ出していくか、複雑な問題に出会った際にそれをどう細分化して解決して行くか、壁にあたった時にどう乗り越えていくかを学びました。
 カルロスくんは将来プログラマーにはならないかもしれません。しかし、もし自動車工になったとしても、政治家になったとしても、マーケティングマネージャー、デザイナーになったとしても、スクラッチを通じて得たスキルを活かすことができます。「コードを学習するのではなく、学習するためにコードを学んだのです。」
 また、カルロスくんは、自分自身の見方も変わったといいます。自分自身をクリエイターだと認識したのです。「人々は世界に対して貢献できる、世界を変える事ができるそう認識することが大事なのです。」

 3つ目の例はネプチューンという名前の12歳の女の子の話です。彼女はクリスマスのカードをつくっていました。トナカイの上をクリックするとクリスマスソングを奏でてくれる。さらに、そのクリスマスカードをネットにアップして、友だちに送れるようにしていました。
 そのうち彼女は様々なキャラクターのアニメーションをつくり、「みんなつかってね!」と公開するようになりました。さらに、「もし他にも欲しいものがあったらつくります!」とコンサルティングもはじめたのです。
 するとみんなが次々に、「チーターが欲しい」といった注文を出すようになりました。彼女はナショナルジオのサイトでチーターの動きを確認しながらチーターのアニメーションをつくりました。
 次に、「どうやってつくるのか教えて?」と聞く子どもたちが現れました。そこで、彼女はつくり方の説明書をつくりはじめたのです。本当は、スクラッチの運営をしている大人や先生が説明書を用意しようと思っていました。ところが子どもたちがチュートリアルをつくりはじめたのです。
 「現在、スクラッチのサイトには何千個ものチュートリアルがありますが、すべて子どもたちがつくったものです。」
 さらに、キャラクターを作る人、背景をつくる人などチームで協働でつくる子どもたちもでてきました。そのうち、彼女たちはトランクインクというウェブサイトをつくり、コラボレーションで制作し、それを共有しています。
 コンサルサービスの提供、説明書の提供、プロジェクトのクラウドソーシング。ソーシャルにつながりながらスクラッチのコミュニティを子どもたちがつくってきました。
 スクラッチのサイトには、「プロジェクト」と呼ばれる子どもたちの作品があります。毎日4000もの新しいプロジェクトが世界中の子どもから送られて来ており、現在370万のプロジェクトが登録されています。
 そのうち1/3がリミックスでつくられた作品です。つまり他の友だちの作品を見て、それに自分のアイデアを追加したり、改訂したりし、自分のものとして保存しているのです。世の中はそのように他の人のアイデアを見て、新しいアイデアをつくりだしていっています。
 「子どもたちは、自分のプロジェクトがリミックスされることはいいことなのだということに気がつく瞬間があります。多くの人にリミックスされたことは、すばらしいことだ!とウェブサイトでもリミックスされたという事実が共有されます。」
 他の人からインスピレーションを受け、他の人に使ってもらうことで誇りを感じ、色々な人と協力し、いままでできなかったことを達成していくのです。そのコミュニティが大事。

 こどもたちは、プログラミングからたくさんのことを吸収しました。自己表現できるようになりました。体系的に考えることができるようになりました。協働することを学びました。学習のプロセスについて学ぶ事ができました。みんなでつながって学び合うということを知りました。
 レズニック教授は言います。「創造的に考える事ができる、新しい解決策を生み出す事ができる。これ以上に大事なものはありません。その手段の1つがプログラミングなのです。」

*こちらミニッツブックにも掲載しています。
http://p.tl/VHP4
http://p.tl/U50f