超教育協会
- 2018.09.22
- 小宮山宏 超教育協会会長(東京大学第28代総長)ご挨拶
超教育協会会長で東京大学第28代総長の小宮山宏先生と「超教育」について議論。小宮山先生は最近 「超大学」という言葉を多用しているそうで嬉しい限り。ライフロングアクティブラーニングを目指してがんばりましょうと激励いただきました。
さて、超教育協会設立シンポでの小宮山先生のご挨拶も公開許可を頂いたのでご紹介。
*写真は超教育協会のピンバッジをつけてくれている小宮山先生。
■「超教育」をひもとく3つの視点
皆さんこんにちは。超教育協会っていったい何だろうと思って、集まっていただいたのだろうと思います。こんなにたくさん来ていただけると思いませんでしたので、会場の選定を誤りまして、少し小さい会場を選びすぎました。お断りしたりして大変申し訳ございません。「超教育」というのをご理 解いただくためには、3つの視点がございます。ひとつは「IT人材の育成」というキーワード。もう ひとつは日本の特徴や有利な点から考える「超教育」。3つめは、「超教育社会」とはいったい何なのか?ということ。これら3つの視点を順番にご説明したいと思います。
■ベースリテラシーとしてのIT
まず、 IT人材の育成です。これは言うまでもないのですが、いわゆる読み書きそろばん、国語・算 数・理科・社会のように、ITはリテラシーのベースになっていきます。ところが、日本は、IT教育に 関して後進国になってしまっています。学校以外の、社会を見てもそうでしょう。世界では、再生可 能エネルギーの普及が信じられないくらい速いのに、日本は遅れているなど、世界に比べて普及が劣っている、さまざまな面があります。ここらへんは実はみんな相互に関係していて、ITはベースのリ テラシーとなっていく必要があるんです。
そして、今、人生100年の時代とも言われていますが、リカレント教育が重要です。私は、これまで DiTT(デジタル教科書協議会)で活動してきましたが、ようやく、国が動きはじめました。しかし、これもまた完全に遅きに失している。この分野は、民間が引っ張っていかないと日本はどうしよ うもなくなってしまうと危惧しています。「民間主導でやっていこう」というのは、超教育において も重要なポイントです。民間が主導して、ITの使える人材を育成していきましょう。これが超教育を 考えるための、第一の視点です。
■IT・AIを活用する余地をまだまだ持つ日本社会
第二の視点は、今の日本の特徴である、就職がものすごくいいということです。逆にいうと、労働力不足とも言われています。今は、15歳~64歳が労働生産人口とされていますが、事実をみるとどう か。15歳から18歳というのは中学3年生から高校3年生や大学1年生。働いていないですよね。高等学校を卒業してすぐに働き始める人は、昨年日本では17パーセントしかいませんでした。先進国基準で労働力人口と言ったら、大体20歳以上です。私は今73歳ですが、まだまだやれます。私の友人たちに、ゴルフをやろうと誘ったら、「エベレストでトレッキングに行ってくるから帰ってからにしよう」と言われます。クラスメイトだから大体同じ年齢です。皆さんは、そういう人たちに年金を払っているわけです。つまり、今の社会の制度が間違っているのだと私は考えます。実態が変わっているのに、制度が変わっていない。例えば、20歳~74歳が労働生産人口という社会に変えて、ITやAIを 導入して生産性を上げていくことができれば、今議論している問題の相当部分が問題じゃなくなってしまいます。IT、AIをどんどん導入しても、雇用などの問題が量的にはおきない。これは、他の国にあまりない、ほとんど世界で例を見ない有利な点です。
■人生100年時代は、「超教育社会」へ
それから3つ目の、いよいよ、「超教育社会」というのは何か?という話です。今の学校制度は人生が50年や60年で終わる時代にできたものです。実は、最初に定年制度が生まれたのが昭和25年頃で、定年は50歳でした。ところが、当時の平均寿命は50歳にもいっていなかったんです。戦争の影響というのもありますが。何しろ1900年の世界の平均寿命は31歳ですからね。その後、平均寿命が どんどん伸びてきて、今世界の平均寿命は72歳です。日本だけが特殊というわけではなく、みんな長生きできるようになってきました。
そして、人生100年時代。今年生まれた子どもたちは、百まで生きると言われています。そんな時代 にありえないじゃないですか。小学校に入り、大学を卒業するまで勉強し、その後はずっと同じ企業で働く。そんなこと、今の学生は考えていない。ではどうするか?途中で仕事を変えたくなったらどこかで勉強して、またチャレンジする。学校教育だけで不十分と思えば、塾に行き、水泳を習い、プ ログラミングの勉強をする。こういったことは既に行われていますね。そういう時代に、ITは本当に 便利なツールなのです。ITをフル活用できれば、たとえば過疎地の問題も減るでしょう。小学生にだ って中学生にだって大学生にだって、それこそ僕らのような年代の人間にとっても、勉強する手段と してのITが、とても有効なわけなんです。
これからの生き方、社会はどうなるでしょうか?これからずっと、生まれてから死ぬまで、生きている間は何らかの形で、学びながら過ごすことになるのです。これが、超教育社会。なんでそんな勉強 したいの?得するから?そうではないでしょう。われわれは、知りたいのですよ。「分かった」と思うことは、人生の喜びでも最大のもののひとつです。「この人を好きだ」というのもそうですが、 「分かった」という感覚を得るためにわたしたちは人間をやっています。ファウストだってそうだっ た。好奇心のために魂を売ってしまったというのがファウストのテーマです。だから、学ぶということ自体が目的になるのです。そのためのツールとして私たちはITを持っています。IT人材を広げていきましょう。そのために日本は本当は有利な状況にあります。超教育社会とは、生まれてから高齢者まで含めて、みんなが勉強し続けられる社会です。そのための教育インフラが必要です。それをつくっていくことが、超教育協会の本当の役割だろうというのが、会長としての私の意見です。課題先進 国の日本として、超教育、そして超教育社会をつくることで世界を引っ張っていきたいと思っております。ぜひ一緒にやりましょう。