チルドレンズ・ミュージアム

2020.08.13
ミュンヘン チルドレンズ・ミュージアム

チルドレンズ・ミュージアム紹介第4弾。(「子どもの創造力スイッチ」より転載。)

ミュンヘンチルドレンズ・ミュージアムは1990年に設立されました。当初は路線バスの車両を用いて、移動式のミュージアムとして活動をスタートさせましたが、1995年に、新装されたミュンヘン中央駅の建物に移動し、活動を本格的に始めました。

 情熱と好奇心と想像力を持つすべての子どもたちを対象とした本ミュージアムには、常設展はありません。年に1〜2本のハンズオン型の企画展のみです。実際に触って理解をすることを重視しており、「ハンズオン」という言葉を使っていますが、むしろ展示よりも体験を重視した内容となっています。

 企画展のテーマは、芸術、自然、文化、技術など幅広く、各テーマを通じて、子どもたちに自分たちが住んでいる世界の楽しさを知ってもらうとともに、自分のペースで自発的に楽しく学ぶことを伝えることを目的としています。

 企画展は、これまでに、シャボン玉、塩、バッハ、飛行、サッカー、宇宙、数学、鏡、暗闇、自然の都市などが開催されてきました。私が訪問したのは2回。「建築」と「紙」がテーマの時でした。

 
 ©Kinder- und Jugendmuseum Munchen

 建造物をつくる際には、クライアントがいます。どのような土台? どのような壁? どのような部屋? 光のあたり方は? 色は? 排水は?
 まず、様々な素材で構造物をつくってみる部屋が用意されています。竹、石、ブロック、木、レンガ、クッション。素材によって組み立て方も違います。
 別の部屋では縮尺の違う3つの空間が用意されていて、そこに木でできたイスや机、ベッド、ビルなどを使って、部屋のデザイン、家のデザイン、都市のデザインに挑戦できるようになっています。

 ワークショップの部屋では、子どもたちが夢の家を設計し、実際につくっています。
 インタラクティブな展示では、断熱の方法や排水システムなどの物理的原理や機能を説明しています。
 子どもたちは、クライアントからの依頼にこたえるにあたって必要な知識を、実際に手足を動かし実験する中で学んでいるのです。

 ©Kinder- und Jugendmuseum Munchen

「紙」の展示の時には、紙という日常にあるものをこれまでとは違う文脈で触れることで、新しい発見ができます。紙の歴史を知り、紙の未来を考えることを通じて、紙の汎用性への理解を深め、より創造的に使えるようになることを目指しています。

 子どもたちは、まず紙をつくります。紙の原料に、色を付け、葉などで模様を入れ、オリジナルの紙を作成します。また、新聞づくりを通じて印刷や製本をすることも学びます。子どもたちには3つの物が入った箱が渡され、その3つの物から記事をつくっていきます。タイプライターで印字し、作成。実際にローカル新聞に掲載されることもあります。紙で洋服をつくるファッションワークショップも開催されていました。

 資料室をのぞくと紙にまつわる歴史を学ぶための資料がたくさん置かれています。資料と制作をいったりきたりしながら、紙について立体的に学んでいくのです。

 ここで行われているワークショップはパッケージ化され、企業と提携し〝紙作成キット〟として販売されています。子どもたちは、このキットを活用することで、ミュージアムを訪問しなくても、自宅、学校で紙づくりを体験できるのです。また、この企画展はオーストリア、オランダなどの街も巡っており、設立された当時の移動型ミュージアムのコンセプトを継続させています。

 1つのテーマを多角的な視点でみるきっかけを提示し、とことん考え、ひたすら深堀りさせる。これまでに見たことのないミュージアムでした。

 ©Kinder- und Jugendmuseum Munchen