チルドレンズ・ミュージアム
- 2020.08.14
- ウィーン ZOOMチルドレンズ・ミュージアム
チルドレンズ・ミュージアム紹介第5弾。(「子どもの創造力スイッチ」より転載。
1994年、ウィーン中心部にオープンしたのはZOOMチルドレンズ・ミュージアム。「ハンズオン、マインズオン、ハートオン!(Hands on, minds on, hearts on!)」を掲げています。手で触って体験する「ハンズオン」から、同時に頭も働かせないといけないという「マインズオン」という言葉がチルドレンズ・ミュージアムの世界で言われるようになってきました。ZOOMはさらに、ハートもオン。体も、頭も、心も、ということでしょうか。「心の赴くままに、質問して、触って、感じて、試して、遊ぶ中で、子どもたちが、自分自身のことを知り、自分のもっている能力を発掘することができる。そして、遊びを通じて学び、創造力を育むことができる」とうたわれています。
©ZOOM Kindermuseum
このミュージアムは4つのエリアから構成されています。1つ目は6〜12歳までを対象とした企画展です。行われていたのは「むかしむかし中世の頃」展。勇敢な騎士、貴族の城の乙女、誇りに思う都市、素晴らしい城や大聖堂。中世というとこれらを想像するのではないでしょうか。
しかし、この時代は、戦争、飢饉、疫病、重労働、そして苦い貧困に苦しめられた歴史でもありました。当時の人々がその頃の都市や田舎でどう生きたのか? どのように働き、何をきて、どのような家で過ごしてきたのか? 体験を通じて中世を全身で感じる展示です。
この企画展は始まって以来とても人気で、数百もの学校が訪問を希望するものの待っている状態となっているそうです。私が訪問をした際には、ペルー、フィリピン、セネガル、オーストリア、日本など各国の衣装を集めた世界のファッションと文化の展示を行っていました。子どもたちは、ボタンを取ったり、布を切ったりして洋服を解体し、オリジナルの洋服をデザインしたり、各国の衣装を使って劇を演じていたりしました。
©ZOOM Kindermuseum
2つ目は未就学児向けのZOOMオーシャン。カラフルな冒険の場です。体を使って周りの環境を探求し、違う景色を感じ、様々な動き方を体感し、遊びを通して学んでいきます。「海の下の世界」と「船」のコーナーがあり、子どもたちの運動能力、認知的力、社会的力を育むように設計されています。大きな船の錨は子どもたちを船員の気分にさせ、魚を釣ったり、灯台とコンタクトをとったり、子どもたちを海の中へと引き込ませます。ぴかぴか光る神殿や、永久に続く鏡のトンネルが子どもたちの探究心をそそる。子どもたちは、海の生き物にドレスアップし、海の中の奇妙な生き物に出会うのです。
3つ目は3〜12 歳までを対象としたZOOMアートスタジオ。若いビジュアルアーティストと共同でワークショップが開催されています。色をつけ、振って、かき混ぜて、身にまとって、笑って、隠して、染めて、聞いて、繰り返して、形作って、壊して、こねて、叩いて、張って、潰して、混ぜて、話して、感じて、学んで……。
ここでは、プロセスに重点が置かれています。親や先生を喜ばせるようなアート作品をつくることではなく、子どもたちが自分自身で試みることを重視し、作業中の会話や出会いを大切にしています。
4つ目は8〜14 歳が対象のZOOMアニメフィルムスタジオ。ここでは子どもたちは、作家、監督、撮影監督、カメラマン、サウンドエンジニアの役割を担い、映画、3Dアニメーション、音楽などをつくっています。
©ZOOM Kindermuseum
訪問した際に驚いたのは、特別に開発されたオリジナルの新しいソフトウェアやハードウェアを使って制作に取り組んでいたこと。アナログでつくったキャラクターをデジタルに取り込み、複数人の協同でコマ撮りアニメをつくり、上映する。そこまでの行程をすべて1つのオリジナルインタフェースで実現していました。最先端の技術を用い、アナログ、デジタル両方の要素をバランスよく取り入れ、子どもたちの創造力、表現力を駆り立てるものでした。
ぜひ日本に導入したい!と思いましたが、その技術は2003年時点では試作段階で、総開発費が5000万円を超えているようでした。大学、企業と連携しR&Dも同時に行い、R&Dセンターとしてもヨーロッパ内での評価が高いそうです。
デジタルは発信ツール、コミュニケーションツールとしては非常に優れていますが、表現ツールとしてはまだまだ未成熟。子どもたちにとっては、粘土をこね、クレヨンで絵を描くほうが楽しかったりします。しかし、今後は表現ツールとしてもどんどん進化していくでしょう。子どもたちに使ってもらい、その様子をフィードバックして開発につなげる。チルドレンズ・ミュージアムがその役割も担っているということに感銘を受けました。