超教育協会

2020.04.06
オンライン授業(1)~マレーシア

 ユネスコは、新型コロナウイルスにより、世界で15億人を超える子どもたちが学校に通えなくなっていると発表しました(4月6日時点)。中国は「学校は止めるが、学びは止めない」というスローガンのもと、迅速にオンライン教育に切り替えています。しかし、日本は環境整備が整わず、休校に伴い学びも停止していると言わざるを得ません。
 
 このような状況下において諸外国はどのような対応をとっているのでしょうか?ここで取り上げるのは事例に過ぎませんが、私の知りうる範囲で興味深い海外の様子をお伝えしたいと思います。今回が第1号です。

 

 留学生の比率が8割を占めるマレーシアのインターナショナルスクールに通う高校2年生のKさん。日本の公立中学校を卒業後、単身でマレーシアに渡り、全寮制の学校で学んでいます。
 Kさんによると、マレーシアでは3月9日頃からコロナウイルス罹患者が急増したそうです。そして、3月16日。学校が休校となり、すべてオンライン授業に切り替えると全生徒にGmailで通知がきました。提示された移行期間は2日間。生徒にとっては、母国に帰国し、家庭での学習環境を整える準備期間。学校にとっては、授業の進め方を検討し、研修をする準備期間。Kさんは、政府の要請で寮が閉鎖となったため、3月19日に日本に帰国を決めました。入国できるギリギリのタイミングだったそうです。
なお、移行期間の2日間もGoogle Classroomで提出できる簡単な課題が出されていました。

   

 そこでオンライン授業は全て通常のスケジュール通りにZoomで遂行されているといいます。当然、全員が出席を義務付けられています。マレーシア時間の8:30(日本時間9:30)に先生が用意した Zoomに入ります。科目毎に固定のリンクが送られてきており、生徒たちは前の授業が終わり次第、次の授業の Zoomに切り替えて出席します。午前4コマ、午後2コマ。これが毎日続きます。

 1時間目(8:30-9:30)
 2時間目(9:30-10:30)
 3時間目(10:30-11:30)
 - 休み時間 11:30-12:00 –
 4時間目(12:00-13:00)
 - ランチタイム 13:00-14:00-
 5時間目(14:00-15:00)
 6時間目(15:00-16:00)

 授業の内容は先生の裁量で決めるため、さまざまとのこと。
例えば、写真はデザインテクノロジーという科目の授業の様子です。いまは、コーヒーショップのインテリアデザインに取り組んでいるといいます。
「椅子などの家具がどのように活用されているのかを学び、模型をつくるためのレイアウトをパワーポイントでデザインしています。」
生徒は自分が取り組んだパワーポイントを画面共有し、それに対して先生が一人ひとりアドバイスをくれる。また、個人で作業を進めつつも、常にクラスメートとGoogleドキュメントや通話など様々なツールを駆使して共有し、アイデアを出し合いながら課題に取り組む。通常と同じ授業がオンラインで行われているそうです。
 
 ディスカッション型の授業がないのか問うてみました。
「課題が出て、生徒同士で話合って答えを導き出すというのはオンラインでもできます。英語や歴史などの文章を考える授業でよく行います。」
例えば、歴史の授業では「第二次世界大戦におけるヒットラーの考え方」というお題が提示されました。 Zoomで各々が意見を表明しつつ、参考サイトなどをシェアしながら、グループで意見をまとめて1つのエッセイを書いたそう。
 
 実技型の授業はどうなのでしょう?
「音楽や体育の授業も Zoomで行っています。音楽の授業では、通常の授業から自分の担当楽器を決めて演奏をしてきました。」
それを踏まえて全員でオンライン合奏しているというから驚きます。まず先生から課題曲が与えられ、クラス全員でリズムや演奏方法をどうするかを話し合います。 Zoomで同時に演奏をしてもタイムラグが生じるため、各々が演奏動画を録り、提出をし、合体動画を作ったそうです。
「ICTを使う事で、みんなで協力するという面で広がりがありました。普段の音楽の授業だと個人練習だったり、自分の楽譜を書いたりすることが多かったのですが、オンラインではそういったことはなく、1つの音楽を簡単にみんなで作ることができました。」
ちなみに、Kさんはパーカッション担当なのでドラムを叩いたそう。
 
 一方、体育はなかなか難しいようで、先生から家でできるエクササイズメニューが伝えられ、生徒はそれを行っている様子を動画や写真で提出するそうです。「各エクササイズのコツは先生が実際に動画で見せてくれます。」
他にも、講義型の授業ももちろんあります。生徒は講義中に質問やコメントを書きこむことができます。そこに先生が回答をしてくれるため、双方向のやり取りが成立しています。
初めに問題を与えられ、生徒が各自で解きつつ、分からない問題を先生に質問する授業もあるそうです。

 

 Kさんに、これまでとまったく変わららない授業が行われているのか?と聞いてみると、「普段と変わりません。」と即答でした。これだけスムーズに移行できるということは、日頃からパソコン等ICTを活用した授業が行われているということでしょう。その実態を教えてもらいました。
 
 「入学時に全員パソコンやタブレットを購入し学校に持っていっています。また自分のGmailアカウントを作成し、GoogleクラスルームやGoogleドキュメントを使って宿題を提出したり、授業変更などの連絡がメールで届いたりなど、いつもパソコンやインターネットを通してやり取りをしています。」
学校にパソコンはあれど、めったに活用しないというのが日本でよくみる光景。使用頻度について突っ込んで聞いてみると、基本的にはどの授業でも活用しているようです。
 
「先生が授業中に投影するパワーポイントのデータを自分のパソコンで表示し、その横にノートをとったりします。ちょっとした小テストもパソコンで行って提出するなど、頻繁に使っています。」
 もちろん保護者への連絡もすべてデジタルです。学校が保護者専用のポータルサイトを用意しており、生徒の成績やテスト結果も全てそこで管理されています。いまは新型コロナウイルスの影響に関する情報が定期的に発信されているそうです。
 
 日本の中学校では紙の配布物がたくさんあったはず。マレーシアの学校ではないの?「一切ありません!全部Gmailやポータルサイトで情報配信されるので、必要ありません。」
ですよね・・・。
 
 パソコンのOSも自由というので、せっかくなので日本でよく課題としてあがる、端末が不統一だと授業の進行が難しくトラブルが起きる話についても質問してみました。
「トラブルは起きないですよ。っていうか起きないと思います 笑」
ですよね・・・。

 

 さて、オンライン授業に話を戻します。私もいま留学生率6割を超える大学院の授業オンライン化を進めていますが、時差と家庭のネットワーク環境が課題です。その点はどうしているのでしょうか。
「帰国できず、マレーシア近辺に残った生徒が多かったため、時差の問題も接続ができない問題も意外と起きていません。」
 
 しかし、各授業で、1人か2人はネット接続が良好ではない生徒がいるそうです。その場合には、最低限Googleクラスルームに課題を提出すれば出席扱いとなり、またGmailやハングアウトで先生がいつでも質問に答えてくれるそうです。
普段のリアルな授業とオンラインの授業ではどちらが快適か聞いてみると、「場合による」とのこと。「人間は、勉強をせざるを得ない環境にいたほうが勉強に向かえますよね?オンラインだとその環境が作れないのでモチベーションが上がりにくいです。しかし、先生に質問するのはオンラインの方がやりやすいです。ただそれも先生にもよりけりで、オンラインの方が質問しやすい先生も、対面の方がコミュニケーションをとりやすい先生もいます。」
 
 補足ですが、日本の学校からマレーシアの学校に移り感じた違いも、ICTの活用より、先生との距離が近くすぐに相談や質問ができるという点だったそうです。
 
 オンライン授業の課題はなんでしょうか。「一部の生徒は、授業とは別のことをしてしまうことです。ミュート機能をつかえば何をしているかはわからないので。基本的にはビデオはONにすることにはなっていますが、いろいろと理由をつけて参加していない学生もいます。」
授業をサボる術を見つけるべく試行錯誤するのは古今東西共通かもしれません。メリット・デメリットがあるものの、生徒たちの間では、「学校にいなくても授業を簡単に受けられるのはすごいですし、質問もできるから満足しているという声が多い」と概ね好評のようです。

 

 最後に質問。休校はいつまでですか?
「未定です。」
これも世界共通ですね。
オンライン教育のノウハウも国境を超えて共有し、コロナウイルス終焉の先に世界中の学びのアップデートを実現したいものです。