超教育協会

2020.04.15
オンライン授業(2)~アメリカ

 今回のレポートは、アメリカ合衆国ニューヨーク州郊外にあるウエストチェスター郡で現地の公立学校に通っているこうすけさん(中学1年生)としほりさん(小学4年生)のご兄妹です。マンハッタンから約40分のところに位置するこの町に、2年前に越してきました。日本人の駐在員が多く住んでいる治安のよい地域ですが、隣町がニューヨークで最初にコロナクラスターが発生した地となりました。

 お二人が通う学校は、日本人はほぼいない現地の公立校。
 州知事からの行政命令により休校になる1週間前から、登校が必須でない旨の通知がありました。しかしその時点ではほとんどの子どもたちが変わらず通学していたといいます。しかし、その1週間は、授業開始時間が1時間遅くなるなど、時間割に変化がありました。学校にとっては、先生方のオンライン授業講習会の開催など休校に向けた準備期間だったのです。3月13日(金)に、翌週から休校になるため教材等をすべて持ち帰るよう、子どもたちに指示がありました。

 

 まずは中学校1年生(6th grade)のこうすけさんの様子を伺いました。こうすけさんがはじめに見せてくれたのが、自治体が用意した地域の全学校がアクセスできるホームページです。
【Mamaroneck Schoolsのホームページ】
 https://www.mamkschools.org/
 
「ふだんからこのページにアクセスすると全ての情報が見られるので、遠隔になってもこのページにアクセスして家でやるだけです。」
教員、生徒、保護者専用のページにて、随時学校の様子が更新され、Google classroomを活用したパスワード付きの生徒のページには、生徒の出席状況、成績表、課題の提出状況など学校に関連する全ての情報が日々更新されているので、最新の学習状況が常に確認できます。そして、学校では、Chromebookが一人一台用意されており、小学校3年生以上にはGmailが個人に付与されます。
 
 遠隔教育に移行してからの家庭学習は、時間割に沿って行われますが、リアルタイムにオンライン授業を受ける形式ではありません。そもそも中学以上は担任制ではなく、時間割はひとりひとり違います。大学のように自分のスケジュールに合わせて授業を移動する形式です。遠隔教育では、毎朝、Google classroomでその日の課題が教科毎に届きます。それを見て、好きな時間に各自こなしていきます。

▲ 時間割

   具体的には、先生が録画した授業動画を見て、課題を解いて提出します。出席ボタンを押して、さらに課題を提出してミッション完了です。しかし、それでは課題を提出しない生徒もいるのではないでしょうか。こうすけさんは言います。
「課題は日頃からポイント制になっていて、提出しないとポイントがもらえなかったり、ペナルティが課されたりするので、提出しない生徒はほとんどいません。課題を提出していないと、個別に先生から連絡もあります。」

▲ 成績表。日々のポイントを入力するのは先生にとってかなりの仕事量。

   通常から日本の中間テストや期末テストのようなまとまった試験はなく、日頃の提出物や小テストで成績がつくそうです。幼稚園から高校3年生までの13年間分の成績表も学校区HPで保管されます。特に中学校以上の成績は、課題の提出状況など細かくデータで蓄積されていく仕組みです。「日本で中間期末試験と担任制をなくした麹町中学校が話題のようですが、こちらではすべての学校が麹町中学校のような方式です。」とお母様のともこさんは語ります。
 
 実技を伴う授業については工夫が見られます。たとえば音楽ではコーラスの授業が行われました。楽譜と歌い方を習った後は、自分が歌っている動画を提出します。家庭科では、洗濯や料理などの実習もあります。例えば、その日のランチを作って証拠写真を提出する課題がありました。こうすけさんはお母さんと一緒に鶏そぼろ丼を作ったそうです。体育の授業での課題は、外で30分間マラソンをすること。ニューヨーク州では不要不急の用事以外の外出は自粛を求められていますが、屋外でのちょっとした運動は他の人と距離をあけて行動していれば問題ないそうです。
 
 課題の所要時間は日によって違うものの、平均4~5時間ぐらい。学校での授業ではグループワークが頻繁にありましたが、在宅になってからはあまりありません。クラスメートと時間をあわせるのが困難なためです。
「しかし、ランチの時間にFacetimeを使って友だちと会話をしたりしているので、在宅だからといってあまりストレスを感じません。」
 
 とてもスムーズに遠隔教育にシフトしていますが、当初は「出席ボタン」と「課題提出ボタン」の2つを押さないと出席とみなされなかったものの、「出席ボタン」を押し忘れる生徒が多く、そのボタンがなくなったり、課題が多すぎるため週間スケジュールが変更になったりなど、学校も試行錯誤をしている様子も伺えます。

 

 小学校4年生のしほりさんの生活をみてみましょう。小学校では、休校初日から毎朝担任の先生よりビデオメッセージが届きます。先生方の生活が垣間見られるご自宅で録画動画のため、親近感が湧くといいます。  
 
 中学校と同じく、Google Classroomに教科毎に課題が届きます。小学校においては、保護者にも毎日その日の課題がメールで届くといいます。こちらもリアルタイムのオンライン授業ではなく、課題提出が中心で、時間割はなく、個々のペースで学習するスタイルです。小学校では日常的に教科書会社が作成したYoutubeを授業でもみるようですので、遠隔でも同じ動画をみています。
 
【算数の授業で活用している動画】
https://m.youtube.com/channel/UCMb3b2_-4jDpi2Mvac_pAMA

 リーディングでは、好きな本で45分間の読書と通常の授業でも使っているRaz-Kidsというアプリで自己学習。ライティングは課題を提出すると担任の先生が添削してくれます。英語がネイティブ並みに話せない移民の児童を対象にしたENL(English for New Language)のクラスの先生が提出前にチェックしてくれます。学校では、音楽の授業の他に各自楽器を習っています。そちらも楽器ごとにレッスン動画が届くので、それを見ながら毎日のフルートの練習に取り組んでいます。
 
 他にも学校のサイトから様々な学習コンテンツにアクセスすることができます。休校6日目から、学校のライブラリーがe-booksを活用するよう連絡がありました。こちらは普段から全ての生徒が自由に活用できます。休校7日目から、Zoomでクラス全員をつないだチャットが始まりました。先生が、児童一人一人に近況を尋ね、ワイワイガヤガヤと盛り上がったそうです。「友人と遊ぶことは自粛中なので、とても楽しみな時間!」。その後も週2回ほど、Zoomでクラス全員と繋がってチャットを楽しんでいます。休校10日目には、小学校全教員の写真をスライド化した動画がYouTubeに限定公開されました。全員 が“I miss you”, “ We got this” など、メッセージボードで子どもを励ましていて、メンタル面のケアもしっかりとなされているそうです。

 一日の所要時間は、まじめにやると丸一日かかるほど、課題の量が多いといいます。そこで、家で課題の優先順位をつけ、午後2時ぐらいまでで切り上げているそうです。
 
 小学生だと保護者のサポートが必要ではないかと聞いてみました。「米国では小学校中学年までの子どもを大人の見守りのないままに家に置いておくことはネグレクトだという暗黙の了解ため、どの家庭も誰かしらの大人のサポートがあります。子どもたちは普段から使い慣れているデバイスやソフトを使った学習なので、あまり違和感なくスムーズに在宅での学習に取り組めているのではないかと思います。」とともこさん。

 こうすけさんとしほりさんの話では、普段の授業においても小学校では30%、中学校では70%くらい、宿題では小学校0%~40%(学年が上がるとup)、中学校は70%ぐらいICTを活用しているといいます。コーディングの授業、プロジェクト型の授業、エッセイを書くときなどに主に使います。特に中学校からは、各教科の先生か日頃からGoogle Classroomで宿題が提示されます。課題説明にYouTubeが使われていることもそもそも多かったようです。
 
 保護者との連絡も同様です。はじめにこうすけさんが紹介してくれた学校区のホームページに、教職員、保護者、児童生徒に関する全ての情報が掲載されています。保護者は、給食用プリペイドへの課金、転入届・欠席届など各種届出、遅刻早退連絡などもそこから行います。年度始めのクラス発表もネットで通知されます。日頃から、校長、担任、各専門教科、クラス委員等から頻繁にメールが届くので、普段から学校の様子が日本の学校よりもよく分かるといいます。「いまから考えると、連絡帳に記入して子どもが先生に届けたり、紙の手紙を配るシステムは非効率ですよね。」と、日本で都内の公立小学校に通っていた頃のことを振り返りならが、ともこさんは教えてくれました。
【Mamaroneck Schoolsのホームページ】
 https://www.mamkschools.org/

 そして、ともこさんは、遠隔教育がうまくいく秘訣は「先生と家庭が日常的にオンラインでコミュニケーションが取れていること」と指摘します。日頃から学校の様子が共有されていて、学校と家庭の信頼関係が構築されていたからこそ、遠隔教育へ円滑に移行できたのでしょう。
 
 補足ですが、ともこさんがアメリカにきて一番驚いたのが、校長、副校長、教育委員会の各担当者、生徒の保護者、全ての関係者の氏名、メールアドレス、直通電話番号が公開されていることだったそうです。「日本ではプライバシーに厳しいですが、こちらでは個人情報は任意で非公開にすることもできるものの、ほぼ全員公開しています。そして、クラス担任のみならず、あらゆる先生に直接メールを送っていいことになっています。先生は学校の外からもメールできるので、夜でもお返事をいただけます。特にトラブルは起きておらず、とても便利です。」個人情報を公開することが合理的かつ便利であると認識されているというのは、大変興味深い話です。ちなみに、今回のコロナ対応についても、教育長から各家庭に直接メールが送られてきたそうです。
 
 今回、遠隔教育を受ける環境がないご家庭には、休校が通知された2日後からiPadと利用制限がついたwifiが無償貸与されました。ともこさんのご家庭はiPadを2台借りていますが、教育委員会が抱えるITエンジニアによるヘルプデスクがあり、トラブルがあった際は家庭のIT環境も含めサポートをしてくれたのが助かったといいます。
 
 なお、お二人が通っている塾も遠隔教育に早々に切り替わり、習い事も遠隔化の流れがきているようです。

 最後に日本とアメリカの公立小学校を体験したともこさんとこうすけさんに今後どちらの学校に通いたいかお聞きしたところ、即答で「米国の学校」と答えられました。
 
「こちらでは先生方に余裕があり疲弊していません。」とともこさん。例えば給食の時間は別の担当の人がくるなど、日本と比較して子どもを見る大人の数が多く、先生方の自由時間が多いそうです。その分、子どもたちへの指導が行き届き、保護者とのやりとりへも時間を割いてくれているのではないかといいます。
ウエストチェスター郡はニューヨーク州でも経済的に恵まれた州であり、固定資産税の10%は教育費に充てられています。予算が潤沢にあり、教育に関心が高い地域というのも背景にあるかもしれません。
 
 こうすけさんは「校則がほとんどなく自由だからこちらのほうがいい。それからコンピュータが使える!」と答えます。中1の1学期では毎日のようにプログラミングの授業があったこうすけさんは、コンピュータクラブにも所属しているそうです。勉強面では在宅での学習に不満はないようですが、やはり学校は早く再開してほしいと言います。「早く起きなくてよくなって今の方が楽だけど、友だちに会いたいので、早く学校行きたい」
 
 「日本の学校のIT化が進んでいることを切望します。IT化は子どもの授業の多様性だけでなく、先生方の事務雑務の負担を大いに軽減させることができます。このインタビューが米国の進んだ状況を伝えることで日本がいかに遅れているか危機感をもってもらえたら。」とともこさんからメッセージを頂きました。
 
 日本においても経済対策により、学びを止めないための施策が急ピッチで進められています。早期に環境が整うよう引き続き尽力したいと思います。