超教育協会

2020.05.07
オンライン授業(5)~ドイツ

 あやこさん家族が住むのは、南ドイツのバーデンビュルテンベルグ州、州都シュトゥットガルトから80kmほど離れたフロイデンシュタット市。人口3万人くらいの小さな街ですが、ドイツの中でもコロナウイルス感染者数が多い地域であり、3月下旬から街は完全にロックダウンしました。買い物に行っていいのも各家庭から一人のみ。スーパーの中では1.8メートルの距離を取らなければなりません。取り締まりもあるため、市民はしっかりとルールを守っています。
 
 あやこさんは2006年にこの街に移住してきました。いまは現地の公立学校に通うリサさん(小学1年生)、ケントさん(小学2年生)、マサトさん(小学6年生)の3人のお子さんがいます。ドイツでは小学校は4年制のため、マサトさんはドイツでは中等教育課程在籍となります。ドイツでは州ごとに教育内容も異なるため、あくまでも一例ではありますが、あやこさんのお子さんの通う学校の様子を伺いました。

 同州で初の感染者が出たのは1月28日。しかし、その時にはまだ対岸の火事といった様相でした。その後も感染者数の爆発的増加はなく、そのままファッシング休暇に入ります。ファッシングというのは春を祝うお祭りで、この期間は冬休みになります。可動式休暇ですが、今年は2月22日から3月頭でした。この冬休みが感染者数の増加のはじまりとなります。多くの家族がイタリアやオーストリアで休暇を過ごしたのです。まずイタリアからの帰国者の2週間自主隔離が始まりました。その1週間後にはオーストリア、チロル地方からの帰国者も対象となります。
 そして、冬休み明けからは、小中高校の登校は家庭判断となります。登校しなくても欠席扱いとならないということです。そして3月13日(金)の昼過ぎ、「17日(火)から休校になる」とアナウンスが入ります。しかし、そのわずか数時間後に訂正が入り、16日(月)からの休校が決定しました。

 突如決定した休校ですが、その週末の学校の対応がとても早かったといいます。小学校では、次の1週間分の課題(主要3教科:ドイツ語、英語、社会・理科の混合科目)が入った分厚い封筒が家庭のポストに日曜日には届いていました。

小学2年生の3週間分の課題一覧
1週間分ずつ全ての課題プリントがファイルされて自宅に届いた

 中学校では、休校後の1週間は先生から毎日メールで課題(ドイツ語、英語、算数)が送られてきました。当初は、休校は4月4日のイースターまで、つまり3週間程度の予定でしたが、3月末から感染者が急増。その頃から、中学校ではMoodleというプラットフォームを活用するようになります。学校のホームページからパスワードを入力し、自分のクラスのMoodleに入ると全教科の課題が掲載されています。当初はYouTubeの授業動画を見て問題を解くといった課題が主でしたが、イースター後からはオンライン授業も始まりました。といっても近況報告としての利用からスタート。はじめは授業はなし。その後、4月末に、5月25日までの休校延期が決定し、それに伴いリアルタイムの双方向型オンラインでの講義が始まりました。さらには、全教科の課題の管理もMoodle上で行われるようになります。

中学校で利用しているMoodle携帯用アプリの
オンライン授業スケジュール
Moodle携帯用アプリの英語課題

【Moodle】
https://moodle.de/

 小学校も、当初は課題のポスト投函でしたが、イースター明けからMoodleの利用を開始しました。インターネットにアクセスできない家庭に対しては引き続きポスト投函対応。2,3人が該当したといいます。はじめはクラス全体の交流はなく、先生のみと個別に交流する機会が設けられました。手段はZoom、Skype、電話。
 
 しかし、さらなる休校延期に伴い小学校でも全教科がMoodleで管理され、課題提出方法もメールに切り替わりました。いまはドイツ語、算数の他に、理科、社会、図工、音楽、体育の課題も出されています。リアルタイムのオンライン授業はありませんが、先生が投稿した動画を見ながら課題をこなしています。しかし、先生の裁量で行われているため、担任が違えば方法も違うようです。

小学1年生の1週間の課題
時間指定はないが、曜日ごとにやるべき課題が掲載されている

  「ドイツも小学校ではさほどデジタルを使った授業をしていたわけではないため、先生たちも今試行錯誤しているように見えます。」

理科の課題

 ロックダウン直後に、州政府が制作したコロナに関する子ども向けの解説動画が送られてきました。それにより子どもたちが状況を理解していたため、「外出したい」と言ったことは一度もないそうです。 「多くの子どもたちがこの動画により、コロナとはなにか?なぜ学校に行けないのか?どう過ごすべきなのか?をきちんと理解できました。そのステップが初めにあったのはとても良かったと思います。」
子どもたちの心のケアもしっかりとなされている様子です。
【新型コロナウィルスについての教材】
https://www.facebook.com/watch/?v=643304833068509

 課題は毎日定められていますが、どのように勉強に取り組むかは自由です。Moodleで課題を提出すると、翌日には添削して戻ってきます。絵を描き写真を先生に送る図工の課題、送られてくる曲を聴いて踊ったり歌ったりする音楽の課題もあります。先日は、「虹の絵と一言メッセージを作成して窓に貼る」というプロジェクト課題もありました。「Bleibt gesund (Stay healthy)」、「Wir bleiben zu Hause (Stay Home)」、「Wir lieben euch alle (We love you)」といったメッセージを書いていた子が大半でした。

 教科科目の宿題も普段から日本とは少々違うようです。「ドイツ語だったら、例えば「Z」という文字を習った日には、家の中を歩いてZのつく単語を探してこようといった生活と結びつけながら学ぶ宿題が多いです。」学校では、ディスカッションが重視されているため、先生からの一方的な講義よりも参加型の授業が多いそう。「算数の授業も、個人で問題を解くのではなく、チームで議論をしながら答えを導きます。いくつの解き方を見つけたかといったことを発表しています。」
残念ながらこのような友だちとのディスカッション型の授業はとても少なくなりました。そんな状況からか、「友だちと会いたいし、みんなでやる勉強の方が楽しいから、学校に行きたい」と子どもたちは嘆いているようです。

 休校が長期化するにあたり、ドイツ政府からパソコン等の端末を持たない家庭の子どもに一人当たり150ユーロを支給し、全生徒がオンライン教育を受けられる環境を整備するとアナウンスがありました。支給方法は各学校への現金支給。
「貧困家庭の子どもが教育の機会を奪われる状況を生み出してはならない。デジタルテクノロジーの利用は21世紀の教育のあり方であり、今後も推進されるべきである。そういう考えから、合計5億ユーロ以上の支給が決定されたようです。」

ビデオカンファレンスツールAlfaviewを使った算数の授業の様子

 また、ロックダウンが始まる数週間前に市内のすべてのエリアでWiFiがつながるようにネットワークが整備されたといいます。そのことは4月3日の市長のSNSへの投稿で知ったそうです。
「通信費もかからないので、150ユーロ支給されれば、オンラインでの学習が可能だと思います。」
通常の端末の使用状況をたずねると、小学校では使っていないものの、11歳以上の子どもが通う中学校では、日常的に1人1台タブレットやパソコンを持って授業を受けています。課題もワード等を使い、メールで提出することが多いといいます。

 さて、あやこさんは、ドイツに移住し、日本の小学校と比較してあまりにも授業が少ないので当初は戸惑ったといいます。ドイツは家族で過ごす時間をとても重視する国です。日曜日はすべてのお店が閉まり、平日も家族でランチを食べる習慣のある家庭があります。労働時間が短く、学校も午前中で終わります。学童の制限も厳しく、両親とも午後まで働かなくてはいけない理由のある家庭以外は申請が通りません。

 そこで、学校入学時に授業の補填として有料のおすすめソフト(SofatutorやAnton)が案内されており、日々それを使っています。「ロックダウン後はそれを使う頻度が増えたといったところでしょうか。」日本のいいところは学校で完結していることだとあやこさん。「ドイツは70%くらい学校で習ってきて残りは自分次第というやり方です。」

オンライン教材Sofatutor

【Sofatutor】
https://www.sofatutor.com/

オンライン教材Anton

 コロナによる休校で民間企業がたくさんのデジタル教材を無料で提供し始めましたが、日常的に活用しているソフトが非常に良くできており、それ以外の教材をつかうことはありません。学校は午前で終わるため、日頃から宿題が多く、家で学習する習慣が身についています。そのため、休校時の家庭学習もさほど難しくなかったと言います。もちろん学習面だけではなく、家での過ごし方、家族との過ごし方に慣れているため、親子ともにストレスにはなっていません。「家族で過ごせる時間が増えて良かったね、と話しています。」

オンライン教材Sofatutorを利用しながら算数の課題を解いている様子

余談ですが、ドイツでは働き方の自由度が高く、多くの女性が子どもが学校にいる間のみ働いているそうです。ベースの労働時間が短く、残業は能力のなさの証明という意識があるため残業する人も少ない。「男女問わず、子どもがいる家庭の働き方が柔軟だなと感じます。」
 さて、学校が午前中で終わるため、習い事も盛んです。そしてそれらもすぐにオンラインに切り替わりました。ギター、ピアノ、歌、バレー。どれもスカイプです。

  リサさん、マサトさん、ケントさんもこれまで通っていた片道100キロの日本語補習校がオンラインになったため、負担軽減になり、オンラインの恩恵を授かっているようです。

 家族の時間を重視し、学校の時間は極めて少ないドイツの子どもたちは、小学校卒業後どのような進路をたどるのでしょうか。ドイツでは小学4年生から進路が大きく分かれます。中等教育の学校は、ハウプトシューレ(基幹学校: 9年生または10年生まで)、レアルシューレ(実科学校: 10年生まで)、ギムナジウム(進学校: 12年生または13年生まで)の3種類から選択をします。以前のように大学進学進路と職業訓練進路に明確に分かれているわけでもなく、成績と希望次第で学年を飛び越すこともコース変更も可能ですし,基幹学校や実科学校を出た後に大学進学への道も開かれているため、進路変更の柔軟性が担保されていますが,最初の大きな分岐点であることは事実です。
しかし、中等教育に優劣はないと言います。あくまでも子どもの適性に合わせて選択するのです。個性を大事にしており、自分のやりたいことを自分の力にあったやり方でやるのがドイツの教育。だからこそ、小学校でも飛び級、落第もあります。さらに突出した力がある子どもは午後に特別学校に通う権利が与えられます。ケントさんは特別学校にも通っていますが、そちらは今は休校中。
「日本の感覚だとギムナジウムに行ったほうがいいのかなと思いましたが、ここでは進路は本人に決めさせるべきだし、無理をさせるのは親のエゴであり本人に良くない、と言われます。ドイツはみんな違うのが当たり前なので親もプレッシャーを感じることなく過ごしやすいです。」

ドイツでは伸ばす子は伸ばす、遅れをとっている子はサポートをする。あくまでも一人ひとりに適した授業を提供するのがドイツ流学校。
 個別最適化した学びの提供にICTは大きな武器になります。これから本格的にスタートするドイツのオンライン教育の導入の仕方に引き続き注目していきたいと思います。