超教育協会
- 2021.04.02
- 【開催報告】「本来の能力を引き出すためのツールVRのさらなる可能性」
超教育オンラインシンポ「VR×教育」シリーズ第2弾は東京大学鳴海先生にご登壇頂きました。
VRの教育利用に関しては、臨場感溢れる超体験を通じた学習強化という点に関心が集まりがちです。しかし、私は、それ以上に、超高速学習を可能とし自己効用感が高まる効果や、他者視点の体験を提供することによりインクルーシブな学習環境デザインが可能となることに、より注目しています。その点で鳴海先生の研究に大変興味があるわけです。
別人のアバタを使うことで自分の実力以上の能力をVR空間で発揮できるようになるという研究結果が出ています。例えば、VRでバットマンになるとほとんどの人の背筋が伸び、ヒーローらしく振る舞おうとし、現実でも利他的な行動が増える。アインシュタインのアバタになると成績が上がる。ミュージシャンのアバタをつけて太鼓を叩くと、手の振りが大きくなってリズミカルに上手く叩けるようになる。「体を変えるだけで無意識に発想が自由になったり、それにマッチした行動や思考を取ったりするようになるからだ」と鳴海先生は説明します。
また、自分とは「異なる身体」で体験することで新たな「視点」を獲得することもできます。男性がアバターで女性視点を体験すると新たな視点で自分を見つめ直せることができる。白人に黒人の体でVR体験をさせると差別意識が減る。VR空間でアバタを活用すると学生が講師に質問しやすい、上司に部下が本音を言いやすいという効果がある。身体によって固定観念が作られてしまった心の状態や社会的関係がリセットされるからです。体が変わると心が変わる。「心と体は不分離で、相互的に影響し合っている」と鳴海先生は指摘されます。
さらには、VRで自分とは全く異なる特性を持つアバタを使い続けると、自分の現実のイメージが、アバタが持つ別の特性に上書きされ、自分の内面も変わっていく。身体をデザインし直すことによって、自分の望む心や認知の状態に近づけるのではないか。そのような研究も進みつつあるそうです。
例えば、シミュレータを使い、現実とは異なる成功体験をフィードバックを与え続けると、「自分はできる」と思え、現実の成績も2割ぐらい上がるそうです。「自分は成功できる」という心の状態を短期間で獲得できるわけです。短期間で成功体験を構築し、自己効用感を獲得できるというのはVRならではだと思います。
「バーチャル身体を使い分け、自分の中の多面的な人格を行きだして社会で活用していける時代には人格、自己、能力に対する概念が変容する」という最後の鳴海先生の言葉はもう少し深堀りしていきたいところです。
ちなみに、補足すると私はインクルーシブな学習環境構築にもVRが大きく効果を発揮するのではないかと期待しています。発達障害特性等がある方々が特性の調整をしてコミュニティに入りやすくなるのではないか。それら特性のある方々の社会の見え方を他の人が理解するのに活用できるのではない。ソーシャルスキルトレーニングに有効ではないか。という3点が理由です。
なお、鳴海先生のお話ではバーチャル背景を「本棚」にすると他者からの信頼がアップするけれど、自己肯定感が下がる傾向にあるそうです(*^^*)お試しあれ。
鳴海先生、今回もどうもありがとうございました!