超教育協会

2018.09.16
野田聖子総務大臣ご挨拶

 5月末に開催した超教育協会設立シンポにて野田聖子総務大臣に頂いたご挨拶内容の公開承諾を得ました。
 当日は小宮山宏会長(元東大総長)、野田聖子総務大臣から挨拶を頂きましたが、お二方とも用意されていたペーパーを全て無視し、5分挨拶のところ、各々10分ずつ想いを語ってくださいました。まずは野田聖子大臣のお話をご紹介します。

■課題先進国日本だからこそ、最大限のICTの活用を
 皆さんこんにちは。ご紹介頂きました野田聖子でございます。今、小宮山先生から様々なお話を聞きまして嬉しく思うとともに、ICTの普及が日本は遅すぎることを改めて感じておりました。これからは人口減少が待ったなしで進みます。私はこれを、静かなる・見えざる有事と呼んでいます。今まで日本人が経験したことがないような、大きな負荷がかかっているこの国にとって、唯一課題解決のためのフォースとして立ち向かうことができるのが、ICTなのではないかと思っているのです。

 昨日、日中韓情報通信大臣会合というものを7年ぶりに行いました。中国の苗(びょう)大臣と、韓国の兪(ユ)長官と、非常に仲良く和気あいあいと会合に取り組むことができ、中身の濃い話をさせて頂きました。そこでわかったことは、やはりアジアの国々が抱えている問題は共通で、やはり人口減少と高齢化が、とても深刻な問題です。

 世界でも、日本が10年、20年近く先駆けて人口減少と高齢化という課題に直面していきます。その 課題を乗り越えるためにICTを最大限活用するチャレンジを始める必要がある、という議論を交わしました。とりわけ中国は人口が多いです。日本は約1億、中国は約14億の人口を抱えています。高齢化をそのままほったらかしにしておくと相当な負荷がかかってしまいます。そういうなかで何ができ るのかといったとき、ICTの力を利用して課題解決すべきであることを再認識しました。今、日中韓、それぞれの国が取り組んでいるのが、AI、IoT、それから5Gです。そして、それらをしっかり進めていくための頼みとしてのサイバーセキュリティ。今、総務省ではそれらの技術を「観覧車」に見立てています。しっかりした土台としてのサイバーセキュリティがあった上で、AI、4K、8k、IoT、 5Gをしっかりと取り込んでいくことができます。

■ICT人材育成は急務
 会合でのフリートークで、私から悩みを抱えていると話しました。それは、人材についてです。今の私たちは、先人の不断の努力によるストックを食べて生きていると感じます。これから未来、50年後の日本に私たちが何を残すことができるでしょうか?人口減少などによりどんどん人材が枯渇していく中で、ましてやICT人材のほとんど育っていない社会で、何を残せるでしょうか?

 2020年には東京オリンピック・パラリンピックが行われます。だいたいどの都市もそうですが、開催の年にあわせてサイバー攻撃のターゲットとなります。切り抜けるためには、防御だけではなく抑止ができる人材であるホワイトハッカーが必要です。そのようなサイバーセキュリティのトップガンと呼ばれる人材がこの国にはいないのです。他国の皆様の力も借りてどうにか2020年を切り抜けていかなければならないのですが、日本ではホワイトハッカーという人材自体さえ、まだまだ認知が広がっていません。

 人材については予定外のディスカッションだったため、今後できることについてはまた新たなセッションを設けようということになりました。できれば小学校のうちから国際的な人材交流を行いたいですね。ICTは年齢不問です。大学を出たからといって、良いICT人材とは限りません。今までの日本の常識と違うことをやり遂げていくためには、既存の団体だけではやりきれません。そうした中で、 超教育協会が果たすべき役割は当たり前のように大切なことと思っています。

■今までの「学問」や「教育」を超える、ICTのポテンシャル
 最後に私の息子の話をしたいと思います。私の息子は、右半身麻痺という身体障害と、知的障害と、呼吸器障害の3つの障害を持っています。心臓が弱いので、呼吸器をつけています。でも今、頑張って生きていて、特別支援学校に通っています。知的障害ですから字も書けませんし、数字も書けませ んし、絵も描けません。7歳ですが、普通の小学生ができることはほとんどできません。言語障害もあるので、会話もままなりません。

 でも唯一彼が大好きなのが、スマートフォンなんです。これが不思議で、知的障害だからよく分からないだろうと思っていたのですが、実は親のやっていることを見て、使い方を覚えていたんです。先日、親の知らぬ間に、息子に、ある技術革新がありました。ついに、私のスマートフォンからインタ ーネット通販でブラウンの髭剃りを買ってくれたのです。アルコールが入っているので返品不可、という3万円もする代物で、夫もひげが薄いものですから宝の持ち腐れみたいになっています(笑)。

 「いやー、こんなことができるようになったんだね」と夫と驚いていた矢先、今月はまたもや思わぬことが起こりました。先日、息子は夫のゴルフの練習に連れてってもらいました。とても楽しかったようで、「ゴルフ、ゴルフ」なんて本人もよく言っていたのですが、そんなある日、またインターネット通販でダンボール箱が届きました。箱を開けてみてびっくり。今度は子供用のゴルフ道具が届いていたのです。つまりICT機器と一緒にいる限り、障害を持った子供にも、生活の中でさまざまなコントロールができるということがわかったのです。これは一体なんなのだろうと、そんな不思議な毎 日を過ごしています。

 この間は、あるゲームを買いました。忙しいのでなかなか触れなかったのですが、箱から出して充電だけはしていました。10日くらい経った朝、突然、ゲームの音楽が聞こえてきたのです。あれ、なんだろう?と思うと、左手だけしか動かせない息子が、片手で操作をしてゲームで遊んでいたんで す。これにもとても驚きました。ここまで来ると本当に、ICTの醍醐味というのはあるのではないかと。今までの「学問」や「教育」ではない何かがICTにはあって、そして今までは保護される側だっ た人たちも、何かがきっかけで価値をもたらすことができるのではないかなと。ささやかな我が家のエピソードなんですが、そんなことを考えました。

 このままでは日本は会社でいうところの倒産です。でもまだ私たちには残された力があります。それは、何十年も頑張ろうといいながら力を入れてもらえなかったICTです。2020年には5Gが実用化し ていく中で、しっかりと花咲かせていくことが大切です。ただ技術ではなくてそれをオペレートして いく人、有能な人たちを今までにない既存の教育の中でしっかりつくりげていくことが、日本の生き 残る唯一の道ではないかなと考えています。ぜひこだわりを捨てて、そして、新しい日本をつくって いただける皆さんであって頂きたいということを最後に申し上げてご挨拶とさせて頂きます。